1. 不思議の国のアリスの舞台裏
アリスをめぐる確執
不思議の国のアリス Chap.Ⅰ
ルイス・キャロル原作『不思議の国のアリス』の挿絵は、ジョン・テニエルが描いたものがよく知られています。けれどアリスの絵について、キャロルは不満を持っていた様子。
『アリス』のモデルが、キャロルの小さなお友達 Alice Liddell (アリス・リデル)という少女なのは有名な話ですが、実際の彼女は黒髪のショートヘアで、前髪も下ろしていました。テニエルの挿絵は、その少女とは違います。
キャロルは『アリス』のモデルにするようにと、Mary という別の少女の写真をテニエルに送りました。ちなみに、物語の中にも、Mary Ann(メリ-・アン)は、白ウサギのメイドとして 名前だけ出てきます。
Mr. Tenniel is the only artist, who has drawn for me, who has resolutely refused to use a model , and declared he no more needed one than I should need a multiplication table to work a mathematical problem! (テニエル氏は、私の挿絵を描いた唯一の画家だ。彼はモデルを使うことを断固として拒んだ。私が数学の問題を解くために九九表が必要ないのと同じように、自分にモデルは必要ない、と言った)
ポイント
no more~than...: 「…と同様に~でない」
上記は、キャロルの言葉。キャロルは数学者なので、当然九九表は必要ありません。テニエルも、画家としての矜持があったのでしょう。
キャロルにしてみれば、せっかく送ったものを使ってもらえず、面白くなかった様子。キャロル自身も絵を描けるので、テニエルの描いたアリスのイラストについて、こんな風に言っています。
he drew severeal pictures of "Alice" entirely out of propotion ― head decidedly too large and feet decidedly too small . (彼の描いた幾つかの “アリス” は、まったく釣り合いが取れていない。頭でっかちで、足が小さすぎる)
言われてみれば、頭身がちょっと変ですが、他のキャラクターとバランスを取るための、あえてのデフォルメなのかもしれません。
アリスのデスジョーク
物語の序盤で、白ウサギを追いかけて、穴に飛び込んだアリス。どこまで続いているのか、なかなか下に着地しません。長い落下中に、棚からオレンジマーマレードのビンを手に取ってみるものの、中身はからっぽで、アリスはがっかりします。
she didn't like to drop the jar, for fear of killing somebody underneath , so managed to put it into one of the cupboards as she fell past it. (アリスは、ビンを落としたくありませんでした。真下に誰かいたら、殺してしまうかもしれません。落下しながらもなんとか、ビンを食器棚のひとつに戻しました)
高い上空から何か落として、それが不運にも下にいる人に命中すれば、まずその方は亡くなります。灰皿のような軽いものでも非常に危険です。
アリスはそのことを心配したわけですが、本当はこの状況でビンを棚に戻すことはできません 。
アリスも落下しているので、同じスピードで落下しているビンは目の前に留まります。ものすごいスピードで落ちている中で、棚にビンを置くことは到底できません。キャロルは数学者なので、もちろん、それを知っている上でのジョークです。
また、アリスは、こんなに長い距離を落ちる経験をしたら、階段から落ちてもなんとも思わない、家の屋根から落ちても、などと言ってます。
Alice
Why, I wouldn't say anything about it, even if I fell off the top of the house !(which was very likely true.)
たとえ家の屋根から落ちたとしても、私は何も言わないわ(それはたぶん、そうだろう)
実際、建物の高い屋根から転落したら、「何も言わない」というより、きっと「何も言えない」状態です。児童書とはいえ、こういった death joke (デスジョーク)は、物語の中に頻繁に出てきます。
2. DRINK ME と EAT ME
間違い英語と掛け算
不思議の国のアリス Chap.Ⅱ
長い穴を落ちて行き、ようやく暗い通路に無事着地したアリス。そこで、『DRINK ME』というラベルが付いた小ビンを飲んで体が小さくなったり、『EAT ME』と干しブドウで書かれた小さなケーキを食べて体が大きくなったり。
驚くのは当然として、アリスの驚き方が独特です。
Alice
Curiouser and curiouser !
あまりに驚いたせいで、その時は正しい英語を忘れてしまったようです。curious (奇妙な)の比較級は、正しくは more curious 。
アリスのこの台詞から、文法的には誤りの curiouser and curiouser というフレーズが、「ますます奇妙だ」という意味で辞書に載っています。
自分自身の存在が分からなくなったアリスは、記憶を確認しようと、習った掛け算を思い出そうとします。気が動転している時に考えようとしても無理な話で、アリスはこれも間違えてしまいます。
Alice
Let me see: four times five is twelve, and four times six is thirteen, and four times seven is ― oh dear ! I shall never get to twenty at the rate !
えっと、4×5は12、4×6は13、4×7は…あら、これじゃ、20に届かないじゃない!
なぜ「20に届かない」のかというと、日本では、九九表は文字通り「9」で終わります(9×9 が最後)が、イギリスでは「12」で終わるため。
アリスの九九で考えると、掛け算の答えが1ずつ増えて行き、「4×12=19」で20に届きません。この説が一番分かりやすい。他にも、「4×5=12」は18進法で、「4×6=13」は21進法で…、といったN進法の解釈もあります。これは非常に難解。
そもそも自分自身を確認するために、九九を暗唱させるという発想が、さすが数学者脳です。
3. 奇妙な生き物たち
コーカスレースをする
不思議の国のアリス Chap.Ⅲ
白ウサギが落とした扇を扇いだところ、アリスの体はまたもサイズダウン。さらに足を滑らせて、体が大きかった時の自分が流した涙の池に落ちてしまいます。
突然できた涙の池のせいで、哀れ、周囲にいた他の生き物たちも巻き添えに。びしょ濡れになった体を乾かすため、アリスと生き物たちはどうすればよいか話し合います。
the Dodo
What I was going to say was, that the best thing to get us dry would be a Caucus-race .
言おうとしたのは、体を乾かすにはコーカスレースが一番だ、ってこと
ドードー鳥がそんな提案をし、生き物たちはレースを始めます。コーカスレースは、スタート地点もゴールもなく、ぐるぐると円状に走る、終わりどころが分からないレース。
caucus は「党員集会」のことで、「コーカスレース」という言葉は、党員たちの堂々巡りの無意味な集会に対しての、キャロルの風刺だとか。
ネズミのドライな話
とりあえず、ドードー鳥の号令でレースは終了。今度は、まとめ役的存在のネズミが dry な話を始めます。ネズミが語る話は、面白味がなく、だらだら長いだけ。これは、「(物が)乾いた」と「(話などが)つまらない」という 2つの意味 です。
また、ネズミは long tail (長い尻尾)が特徴的なので、ネズミの語る long tale (長い話)は尻尾の形を取り、こんな風に表記されています。tail と tale は同音異義語 。
Alice
you had got to the fifth bend, I think?
ネズミの尻尾をイメージして話を聞いていたアリスは、この辺りまで話が進んだのだろう、と悪気なくそう言います。ネズミは、何のことか、そりゃ分かりません。
the Mouse
I had not !
Alice
A knot ! Oh, do let me help to undo it !
not と knot の引っ掛け です。結び目ができたと勘違いして、アリスは善意で申し出るものの、このトンチンカンな言葉でネズミを完全に怒らせてしまいます。
おまけに、不用意にアリスが飼い猫の Dinah(ダイナ)の話をしたため、その場にいた生き物たちは逃げてしまいました。ネズミや鳥類の前で、さすがに猫の話はまずい。
Voice By ondoku3.com
<引用・参照元> The Annotated Alice
紹介された人もポイントが付く
一番ポイントがたまりやすく、1P=1円で還元率もいい